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順位決定方式の怪

2007年からセントラル・リーグ、パシフィック・リーグ同一方式によるクライマックス・シリーズが採用され、後述の問題は解決した。

(2011年1月18日執筆、2024年5月23日掲載)

セントラル・リーグの順位決定方式が二転三転している。まず、これまでの経緯を振り返ってみよう。

1989年までは勝率によって順位を決定していた。1990年から引き分けの再試合を行うこととし、勝数によって順位が決定されることになった。2001年は引き分けの再試合を行わないことにしたが、勝数によって順位を決定するという原則は変更しなかった。2002年から勝率を優先して順位を決定することにした。

問題の本質は、引き分けをどのように扱うかだ。まず、1989年までのように勝率(勝数/(勝数+敗数))によって順位を決定する場合は、引き分けはその計算式から除外されるため、順位の決定に関しては中立的だ。しかし、たとえば勝率が5割を上回っている球団が2試合を戦う場合、1勝1敗だと勝率は下がるが2引き分けだと下がらない。そこで、同点で試合終盤を迎えると、勝ちに拘るよりも引き分けを狙う球団が現れるようになった。実際、引き分けが多く勝数が1位の球団よりも少ない球団が優勝し、問題となることもあった。

1990年からは引き分けの再試合を行うこととし、勝率1位の球団が必ず勝数1位になるようになったため、この問題は一旦解消した。しかし、日程の問題などのためにこの方式を続けることは難しかったようだ。そこで、2001年は引き分けの再試合を行わず、勝数によって順位を決定することになった。ただし、勝数1位の球団と勝率1位の球団が異なる場合は両者でプレイオフを行うこととされた。シーズン中の順位表では勝数に従って球団が並べられたが、優勝の可能性に関係なく試合消化数の多い球団が上位に位置付けられやすくなり、混乱が起こった。シーズン中、ほとんどのマスメディアがこの分かりにくい順位表を掲載していたことは、非常に不思議であった。いずれにしても、この方式は1年で見直しの対象になった。

2002年からは再び勝率を優先して順位を決定することにした。勝率に従って順位付けを行うが、勝率2位の球団が勝数で勝率1位の球団を上回った場合、両者でプレイオフを行うこととされた。2001年方式は問題があったが、2002年方式の問題も大きい。順に検討していこう。

2001年方式、2002年方式とも、勝率、勝数のどちらによって順位を決定するのが適当なのかを模索する中で折衷案として生まれたものであろう。しかし、残念ながら不必要に複雑なものになっている。シーズン終盤に優勝争いが混沌としてくると、各球団の優勝のための条件を示すことが非常に難しくなってくる。

勝数によって順位を決定するべきだと主張する根拠は、勝率によって順位を決定すると、優勝争いをしている球団にとって引き分けが0.5勝0.5敗よりも高い価値を持つことになり、不適当だというものであろう。しかし、「勝数方式」では逆に引き分けはほとんど負けと同じ価値しか持たない。それは極端な価値判断であろう。引き分けにはどの程度の価値を認めるのが適当なのであろうか。

結論から言うと、引き分けは0.5勝0.5敗とするのが適当なのではないかと思う。1960年頃に採用されていた方式であり、「勝率方式」と「勝数方式」の中庸だ。この方式を採用すると、2001年方式や2002年方式のように複雑な規則は不必要になる。「勝数方式」を主張する人は、それでも引き分けを狙う球団が現れて不適当だと主張するかもしれない。しかし、はたしてそうであろうか。確かに1980年頃は、同点で試合終盤を迎えると引き分けを狙う球団が横行した。しかし、これは、当時は3時間など一定の時間を超えて次の延長回に入らないこととされていたことによる影響が大きい。試合終盤に時間稼ぎをすることによって次の延長回に入ることを阻止することができたわけだ。一方、1990年以降、延長回は最大回数によって制限されるようになっており、2001年以降では12回で打ち切りとなっている。したがって、試合を引き分けるためには12回まで戦う必要があり、これは救援投手などに余分の負担を課すことになる。この方式の下では、「0.5勝0.5敗方式」であろうと「勝率方式」であろうと、無理に引き分けを狙うインセンティヴはほとんどないであろう。

「勝数方式」を主張する人は、また、試合を戦う目的は勝つことにあるのだから、順位の決定はやはり勝数によって行うのが適当だと主張するかもしれない。そのような人には、「勝数方式」によると、たとえば同点で12回裏を迎え勝ちの可能性のなくなったヴィジター球団が何とか同点で守り切ろうとするインセンティヴをほとんど奪うに等しいことになる(特に上位球団が下位球団と戦っている場合など)のだと反論したい。引き分けの価値をもっと評価してもらいたいのだ。

以上のように、「勝率方式」と「勝数方式」では前者の方が圧倒的に望ましく、前者の問題点をやや改善したのが「0.5勝0.5敗方式」だと考える。特に、「0.5勝0.5敗方式」を採用すると、2001年方式や2002年方式のように複雑な規則は全く不必要だ。

とは言え、2002年方式は勝率を優先するため、勝数を優先する2001年方式よりは評価することができると考える人がいるかもしれない。ただし、大きな問題がある。そのような方式を採用する基本的な考え方が不明確なのだ。

2001年方式は、「勝数方式」と「勝率方式」の両方の存在意義を認め、それぞれの方式による1位球団が異なった場合はプレイオフを行うことによって解決するというものであり、考え方としては理解することができる。一方、2002年方式は、「勝率方式」を優先し、勝率2位の球団が勝数で勝率1位の球団を上回った場合に限り両者でプレイオフを行うこととされた。勝率3位の球団が勝数1位になってもプレイオフの出場権はないが、その理由は説明されない。このように基本的な考え方が整理されていないために、以下のような大事件が起こる可能性がある。

AとCの最終戦前 最終戦でCがAに勝利した場合
球団 試合 勝数 敗数 引分 勝率 残試合
139 81 54 4 .600 1
140 83 57 0 .593 0
139 78 54 7 .591 1
球団 試合 勝数 敗数 引分 勝率 残試合
140 81 55 4 .596 0
140 79 54 7 .594 0
140 83 57 0 .593 0

シーズン最終盤にあり、球団AとCの最終戦1試合を残して、Aの勝率単独1位と、勝率2位のBの勝数単独1位が確定している。しかし、プレイオフを行うことは確定していない。Cが最終戦でAに勝つと、勝率でBを上回ることになる。Bは勝率3位となり、プレイオフの出場権が得られなくなるのだ。一方、Cは勝数でAを下回っているため、勝率2位になってもプレイオフの出場権を得ることはできない。Aにとっては、Cとの最終戦に故意に敗れることによって自らの優勝が決定するという事態になった。日本中の注目を集めたこの試合はA、C両球団とも2線級投手の先発で始まって、・・・。

繰り返すが、このような事件が起こるのは、2002年方式は基本的な考え方が整理されていないためだ。このような方式は、小手先の規則修正を施すのではなく、即刻廃止し、2004年からは単純な「0.5勝0.5敗方式」(あるいは「勝率方式」)に改めることが絶対に必要だと考える。

ところで、2001年方式や2002年方式が採用された背景には、興行の観点から、シーズン終盤に特定球団が独走して優勝争いの関心が削がれることのないようにプレイオフを行いたいという意識もあったのではないだろうか。しかし、これらの方式ではプレイオフが行われる可能性は低く、興行に対する貢献はほとんど期待することができない。興行に対する貢献を期待するのであれば、もっとプレイオフを行う可能性の高い方式を採用するべきであろう。たとえば以下のような方式だ。
  • まず、2位球団と3位球団が1試合制のプレ・プレイオフを戦う。ただし、2位球団は、3位球団に対して、登板を禁止する投手を一人指名することができるものとする。この勝者は1位球団と3試合制のプレイオフを戦う。パシフィック・リーグで2004年から採用されている方式に近いが、2位球団と3位球団を異なる扱いにしていることが特徴だ。
  • セントラル・リーグ1位球団とパシフィック・リーグ2位球団、パシフィック・リーグ1位球団とセントラル・リーグ2位球団が3試合制のプレイオフを行う。ただし、それぞれのリーグの1位球団は、対戦相手に対して、2試合目までの登板を禁止する投手を二人指名することができるものとする。
以上、早急な見直しが期待される。

(2003年5月25日掲載、2004年9月24日更新)

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